持ち去られた仏様が寺院に還る
昨年来、京都市内では相次いで仏像盗難事件が起き、天台宗の寺院でも山科の毘沙門堂門跡(叡南覚範門主)、大原の宝泉院(藤井宏全住職)が被害にあったが、幸いにも、仏様は還られている。各地でこうした事件が起きており、寺院としても被害を未然に防ぐ為に、防犯対策の強化も検討しなければならないが、一方、信仰の面では、仏様と参拝者との距離が遠くなるとの危惧もあり、この問題は寺院にとっては対策が難しい。
今回の件について毘沙門堂の大森行隼執事長は「仏様が還ってこられることになり、安堵しております。ご来山の皆様に再び拝して頂けることとなり嬉しい限りです」、藤井宝泉院住職は「押収物の映像を見た時、すぐに盗まれた仏様と分かりました。一時は新たに仏像を仏師に彫って頂こうかとも思っておりましたが、これで安心しました」とそれぞれ仏様が戻られることの喜びを語っている。
仏像盗難の背景には、仏像に対する日本人の意識の変化を上げる仏教者もいる。信仰の対象として仏様を拝むという意識よりも、絵画や骨董品と同じ「美術品」として考える傾向があると言うのだ。
だからといってお祀りする側の寺院も美術品として厳重にケースに入れたり、倉庫に保管するわけにはいかない。安全面からすれば、その方が安心だが、まず信仰の対象であるからだ。
近年は、国の文化財ではなく、自治体指定の文化財、無指定の仏像が盗難に遭っている。それも無住職寺院であるとか、施錠もなされない建物などにお祀りされている仏像が多い。
従って寺院においては、強固な防犯対策が取れない以上、たとえ無指定でも、写真や大きさ等の記録を作成し、日々注意を怠らないことが肝要と指摘されている。
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仏像盗難事件
昨年来、京都市内の寺院では仏像盗難が相次いでいたが、建仁寺で一月末に起きた仏像盗難の件で、三月初めに逮捕された容疑者の会社経営者宅の押収物から毘沙門堂と宝泉院の仏像も発見された。